画集・絵本の最近のブログ記事

mugonkan.jpg[無言館] 窪島誠一郎 著   講談社 画文集
無言館を訪れた。信濃路は紅葉が始まりのどかな秋日和でした。

無言館は1979年に長野県上田市の山麓に開設された、先の太平洋戦争で志半ばで戦死した画学生百余命、六百余点の遺作、遺品を展示した美術館です。
建物は館主窪島誠一郎自身が設計されたヨーロッパの僧院を思わせる荘厳な静けさの漂う美術館になっています。
畑と里山に囲まれてひっそりたたずんでいます。

戦争を知らないで育った窪島は、戦後50年もたった自分の中に、戦争に翻弄されながらも自分を慈しみ育ててくれたのに自分から感謝もされず死んでいった養父母への懺悔の気持ちが渾然とわきあがります。
そのことが、強制的に召集され絵筆を銃器に変えて戦わされ無念の思いで死んでいった画学生の思いと、養父母の思いとが重なり、全国の戦没画学生のご遺族を訪ね話を伺い慰霊の気持ちを込めて美術館を建てることを決意するのです。

ご遺族の方たちは、戦死報告の一枚の紙切れと一緒に、息子が又は夫が又は兄弟が遺してくれた絵を50年以上も大切に守っておられ、遺作を手放すのは苦しいけれど彼らの無念を多くの方に知ってもらい、また画学生同胞の作品と一緒に展示されることは戦没したものにとっても喜びになるだろうと思われて、みな無償で美術館に寄贈されたそうです。

絵は無言だけれど言葉以上のものを語りかけてくれます。
戦没した画学生の思いだけではなく、理不尽に命を奪われた世の中全ての者のこの世に遺した掛替えのない思いまでが伝わってくる。

近くでは3.11災害で、又は多くの事故で、遠くでは戦争や原爆などで亡くなった方たちの思いがこれらの絵から伝わってくる。

この「無言館」という本は、窪島誠一郎氏が美術館に収められた一部の絵に遺族から聴き出したエピソードを添えてまとめられています。

一枚一枚の絵に目が釘づけになり、胸には深い思いがふつふつとこみ上げてくる本です。

蛇足:
窪島誠一郎氏は赤ん坊の時父水上勉から言葉はきついですが捨てられた方です。水上氏晩年には和解されて親密な関係になられましたが。
著書に「父への手紙」や「雁と雁の子―父、水上勉との日々」などがあります。

香川照之と市川猿之助の関係を思いおこさせられました。


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パリのおばあさんの物語  スージー・モルゲンステルヌ著 セルジュ・ブロック絵 岸恵子訳
友人が、「読んで、感想を聞かせて」と言って、この本を置いていった。
この歳になると、<生→老→病→死>に至る人間の一生について、友達仲間で、話し合うことが多くなってきた。
このパリのおばあさんの日常は、将来、私が想像する自分のおばあさんの姿そのままだから、友人が本を渡しながら、ニヤリと笑っていた訳がわかった。
・・・・・・・
   おばあさんは小さなアパルトマンに独り暮らしです。
   おじいさんに先立たれてひとりぼっち。
   子供はいるけど一人ぼっち。

   昔はずいぶんたくさん本を読んだのよ。
   でも もう駄目。眼がとても疲れるの
   縫い物にも刺繍にも精を出したものだわ。
   でも もう気力はありません。

   おばあさんは、薬を飲むのを忘れます。
   記憶が薄れるだけでなく、物忘れがひどいのです。
   だから、お誕生日だっておぼえてないの。
   でも、雪が降ったことは覚えてる、、。
・・・・・・・・・
おばあさんは、そんな生活を悲しんではいません。淡々と受け入れて楽しんでさえいます。悲惨なところは微塵もありません。
私もそんなようになる予感はあるけれど、そうあらまほしいと思うけれど、パリのおばあさんのようになり得ないだろう所が一ヶ所あります。

・・・・・・
   おばあさんは鏡をのぞきます。
   「なんて美しいの」とつぶやきます。
   顔はたくさんの歴史を物語っているのですもの。
   眼の周りには楽しく笑い興じたしわ。
   口の周りには歯をくいしばって悲しみに耐えた無数のしわ。
   しわ、しわ、しわ、いとおしいしわ。
・・・・・
ここまで老いを受け入れられればどんなに幸せかなと思うけれど、、、。
顔に表れるしわが、美しいと思えるしわになるには、精一杯生きて、悔いのない生活を営むことが必須条件だろうし、それが私にはまだまだ足りないなあと、顔に乳液を延ばしながら思わされたのでした。

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しばわんこの和のこころ 絵と文:川浦良枝 白泉社
日本の文化・風習を季節の移り変わりにあわせて柴犬の「わんこ」が紹介するきれいな絵本です。
絵本といえども日本の文化図鑑ともいえます。茶道に花道。満ち欠けする月の風雅な呼び名などはコーナーを作って詳しく説明があります。
海外に駐在している何人もの知人に差し上げては大変喜んでもらっている絵本です。
お正月の準備では座敷箒を使っての掃除の仕方から床の間飾り。おもてなしの心ではお玄関でお客様を迎えお座敷に案内し座布団の進め方お茶の出し方など。
今日久しぶりに本棚から取り出してみました。
ああ、柴犬「わんこ」の可愛いこと!うちで同居していたワンちゃんが柴犬だったこともありこの本を紐解くたび胸が締め付けられるような懐かしさを憶えるのです。
愛犬の思い出と同時に日本の美しい文化を思い出させてくれるからです。

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「星野道夫の宇宙」 星野道夫著 朝日出版社

私が好きで尊敬する写真家である星野道夫(1952?1996)写真展を観にいった。
2月18日まで。於:神戸大丸ギャラリー

星野道夫さんはアラスカの野生動物や自然を写真とエッセイにより多くの記録を残された。
ロシア・カムチャッカ半島での取材中に就寝中のテントをヒグマに襲われて急逝された。
彼がカメラを通して切り取られた北極クマやアザラシの家族写真の情景は目にする人々の胸をうち、私達が大切に守っていかねばならないものに気付かせてくれる。
彼が亡くなって早12年経ったが地球の自然は加速度的に崩壊しつつある。

彼は言う
<一生のうちで、オオカミに出会える人は ほんの一握りに過ぎないかもしれない。
だが、出会える出会えないは別にして、
同じ地球上のどこかに
オオカミのすんでいる世界があるということ、
また、それを意識できるということは、
とても貴重なことのように思える。>

「オオカミ」を「ネパールの子供達」に書き変えても十分通じる哲学です。

「星野道夫の宇宙」は2003年7月に長野県東急セルシェでの写真展の目録ですが、彼の写真集や随筆は書店に沢山ありますから是非見てください。

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