2010年3月アーカイブ

anraku.jpg安楽病棟 帚木蓬生著
色々な症状の老人が暮らす認知症病棟での出来事を、理想の介護を実践する新看護婦城野の生き生きとした言葉で綴られているミステリー小説。

ミステリーと言っても最後のほうまでミステリーとは分からない。

認知症患者さんの日常が、詳細に患者さんへの愛と理解で溢れる語りで話はすすむ。

30章からなり、最初の10章では10人の患者さんの生い立ちと施設に入所するようになったいきさつが紹介される。
後の20章は、施設での患者さんの起床の介護から始まり入浴や排尿誘導や当直、四季折々の行事が大変だけれど楽しく語りすすめられるが、担当医との関わりが折り込まれ、だんだん本の題名が認知症病棟でなく、何故安楽病棟となっているのかが分かってきてこの辺からミステリーめいてくる。

常に患者さんをかけがえのない人間として見ている城野看護婦と、「週末期医療研究会」に属し、患者の問題を医療として答えを出そうとしている冷ややかな香月医師。

精神科医でもある著者帚木蓬生の優しい目線を感じさせてくれ、深い問題をかかえてはいるものの、情感溢れる看護婦の言葉が自然に胸に響き、介護するって時にはなかなか楽しいのかもしれないと思わされた。

両親をすでに見送った私にとって、安楽病棟は自分の問題として考えさせられた。介護されるのは辛く苦しいと思っていたけれど、城野看護婦のような人がいるのなら喜んで入所するだろうと思った。

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seihai.JPG「聖灰の暗号」(上下) 帚木蓬生 著
13世紀のこと。南フランスのアリエージュ県トゥルーズ地方に起こったキリスト教宗派カタリ派がローマカトリック派から異端とされパコー大司教の指揮のもとで撲滅をめざし大虐殺が行われた。
その史実の報告はカトリック総本山のバチカンの倉庫に忌まわしいものとして今も隠されているらしい。

この本は、日本人の若い歴史研究者の須貝彰がトゥルーズ市立図書館で古い2枚の羊皮紙を偶然発見したことから始まる。
それはカタリ派大虐殺を、弾圧された側から記した中世の貴重な資料だった。
須貝はパリの学会で発表しセンセーションを引き起こし、発表後に不可解な事件が次々と起こる。

羊皮紙に記された迫害の様子は当時パコー大司教とカタリ派の聖職者の通訳をしたドミニコ会修道士レイモン・マルティの手稿によるもので、彼は大司教の言いつけで事実を隠した報告書をローマに送る。納得いかない彼は羊皮紙に事実を書いて隠したのである。最終的に彼も異端者として火焙りの刑をうけ殉教する。

手稿は作者によるフィクションだが、そのような大虐殺の史実は存在する。

日本でも、キリスト教迫害の史実があった。日本の場合は宗教闘争ではなく施政者側からのキリシタン迫害であった。いずれも宗教の名を隠れ蓑にした権力者からの殺戮である。筆舌に尽くしがたい犠牲のうえに成り立つ勝利ではあるけれど、いつの時代も殺される側は勝利を得る。

カタリ派の聖職者による言葉は、愛に満ち説得力がありそれはそれは美しく胸を打つ。代筆者(?)となって記した著者帚木蓬生のことが知りたい。


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