2010年1月アーカイブ

おごそかな渇き  山本周五郎 著
周五郎の本は、富める者や権力者側には真の幸せがなく、貧しいもの弱い者のなかにこそ、人間の真の幸せがあるということがテーマになっていた、と思います。

若いときの私には、その周五郎の世界は、当たり前のようで新鮮味を感じられず何か刺激がなくて退屈な感じがして敬遠気味のジャンルでした。

今回偶然に手のとった「おごそかな渇きは」昭和42年に朝日新聞に連載され絶筆となった未完の小説です。

昭和17年から書かれ選ばれた10篇の短編集の最後にこの「おごそかな渇き」は載せられていますが、あきらかに他の短編とは違っています。

巻末の解説によると、彼の小説の根底には宗教が根付いて「おごそかな渇き」では、' 現代の聖書 'を描きたいというのが周五郎の抱負だったそうです。

そこには周五郎独特の古風な義理人情の話しというより、これだけは書き遺して置きたいという作者の願いのようなページが展開されます。

破壊と殺人が繰り返される戦争、宗教論争、キリスト教徒と仏教、漁業問題、親子問題、教育問題、自然破壊と世紀末、病苦、思春期の問題といった深くて重いテーマが、寒村に生きる素朴な登場人物の会話の中でさらりと軽く描かれます。ゆるぎなくしっかりと、、。見事です。

1967年に64歳で亡くなったのですが、もっと長生きをして、現代の混沌とした世の中に人間愛に溢れた論評を発信して欲しかったとつくづく思わされました。

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思索紀行 立花隆著
この本を読んで立花隆氏に先入観をもっていたことがよく分かった。
私は立花氏のことを難しいことを述べる評論家と見ていたので、この本を友人から紹介されなかったら手に取らなかったと思う。
実際にはその友人より先に夢中になって読んだ。2010年を迎えるときにあたって相応しい書物であった。
私は彼を机上の評論家と思っていたので、彼が'私好み'の根っからの体験派であることがわかって驚き感動し尊敬するに至った。

<<<旅は日常性からの脱却そのものだから、その過程で得られたすべての刺激がノヴェルティ(
新奇さ)の要素を持ち、記憶されると同時にその人の個性と知情意のシステムにユニークな刻印を刻んでいく。旅で経験するすべてのことがその人を変えていく。その人を作り直していく。旅の前と後では、その人は同じ人ではありえない。>>

(もちろん彼のいう旅は添乗員に連れられていく見物旅行ではありません。)

立花隆を育て上げてきた旅(人生)紀行。
生い立ちから始まり、彼の人生の一大転機になったという東大2年の時の、友人と二人で実行したヨーロッパで開かれた「国際学生青年核軍縮会議」に新藤兼人の「原爆の子」などの映画3本を携えて出席するというヨーロッパ無銭旅行の経緯など、のめりこむように読んだ。

彼は私と同じ世代でかれの大学時代の学園紛争・赤軍派の闘争の様子や家庭の事情など手に取るように理解できて興奮した。
イスラエルやスペインやニューヨークの紀行など私もプライベート旅行で行っているので少しの接点があり同調し考えさせられることも多く面白かった。

パレスチナ報告と問題点では、彼自身が自分の無知さを恥じているぐらいで、到底私には難しすぎて自分の'無知の知'を確認しただけだったけれど目が開かれたところも多々あった。

これは買って本棚に収めたいと思った本でした。

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